世界が分断されています
辛い状況です。
世界が分断されています。
海外では外出禁止になる都市が続出。
無断外出者に鞭をうつ人、ベランダで歌う人々、主人のリモートワークに心躍らせる飼い犬、 人のいなくなった街でのびのびと過ごす野生動物・・・
非日常的な日常を垣間見ている状況です。
日本でもじわじわと感染者が増えています。
主要都市のロックダウンも囁かれる昨今。
寝て起きたら状況が一変しているなんてことが毎日続き、どこか感覚が麻痺してしまっているように錯覚します。
隣人、同居人とすら接触できなくなりつつあります。
造形工房QunQunでも、万が一を考え、最善を尽くすという意味で
アトリエに集合しての共同制作を見送り、メンバー間の直接接触を極力避けているという状況です。
渡航制限・禁止で国が分断されています。
外出禁止で社会が分断されています。
もしウイルスに感染してしまったら。家族と分断されることになります。
そんな先の見えないこの状況を、2011年の映画が恐ろしい程現実的に描いていました。
・・・ちょっと序文が重くなり過ぎましたが、
外出自粛中だしせめて傑作映画を観ようぜという話です。
今回は「娯楽的お祭り映画監督」と
「身に染みるドキュメンタリー映画監督」という2つの顔を持つ
スティーヴン・ソダーバーグの傑作という視点と、
恐ろしい程に現実を描いたフィクションという視点で、
こちらの映画を紹介いたします。
あらすじ
ごほっ
ごほっ
香港への出張の帰り、ある女性は昔の恋人との甘い時間を終え、夫と子どもの待つ家へと帰ろうとしていた。 ラウンジで軽く食事を済ませ、キャッシュカードを店員に渡し、会計を済ませる。
とある中国人男性は、仕事場から船や電車で家に帰ろうとしていた。 どこか体調が悪く、足取りが重い。倒れそうになるたび、手すりにつかまる。
ヨーロッパではモデルらしき女性も体調が悪そうだ。 持っていた書類を職場に置き、そのまま宿へと帰る。
日本では、体調の悪そうな男がバスで倒れてしまう。
感染は、もう始まっていた。
『オーシャンズ11』シリーズで知られる、スティーヴン・ソダーバーグ監督の傑作。
個人的には「監督の1つの到達点」の映画だと思っています。
ガイ・リッチー監督でいえば、ハリウッドで培った大衆性をおさえつつリッチー節を随所に炸裂させた『コードネーム アンクル』
白石晃士監督でいえば、ホラー映画をぶっ壊すという信念のもと古典Jホラーの要素と近年の娯楽的Jホラーの要素を見事に融合させた『貞子vs伽椰子』といったところ。
(どっちも評価が分かれてる?うるせえ!観ろ!)
スピルバーグ監督に名前がめっちゃ似てるから覚えやすいこのソダーバーグ監督。 大衆向けの娯楽映画監督という側面と、深く心に刺さるドキュメンタリー映画監督という2つの側面を持つ名監督です。
『オーシャンズ11』シリーズでは「超豪華なキャスト陣が軽口を言いながら2時間たっぷり準備して泥棒するだけ」という商業的で頭パーパカパーな内容を(それでも深く読めば伏線が随所にちりばめられているクレバーな傑作映画ではありますが)展開する一方、
『トラフィック』では静かな演出でアメリカとメキシコの麻薬密輸に関わる人々の姿をドキュメンタリー的に鮮烈に描くという、非常に二面性の強い監督だと思っています。
映画『トラフィック』の予告編は残念ながら見つかりませんでした。結構昔だからね。オーシャンズもそうだけど。
非常に両極端な監督。
比較的最近話題になったのは「地味なオーシャンズ」と評される(たしかに地味)快作犯罪映画『ローガン・ラッキー』や、 パナマ文書流出事件をシニカルに描いた『ザ・ランドロマッド』等々・・・
そんな監督の1つの到達点だと思えるのがこの『コンテイジョン』なのです!!!
■見どころ
ソダーバーグの絶妙なカメラワーク
ソダーバーグ監督、カメラワークが面白い監督です。
様々な作品で、初見では意味の分からないような極端なズームや
意味ありげなクローズアップを多用しています。
これが不思議と嫌味がなく、忘れるか忘れないかの瀬戸際で心にひっかかるんですね。
で、後から「ここはこういう伏線だった」というのに自然と気付ける。(半分くらいは見直して気付くけど)
そんな面白いカットを撮る監督です。
『コンテイジョン』では 物語序盤からこのカットが不気味に炸裂しています。
序盤では様々な人々が体調を崩し、死に向かっていく様が描かれますが、
クローズアップされるのはその人達が触れるもの。
コップ、クレジットカード、ドアノブ、つり革、手すり、書類、タッチパネル・・・
もう手を洗わずにはいられません。
群像劇的演出
多くの人物がこのパンデミックに巻き込まれていきます。
- 妻と息子を感染症で亡くしてしまい、残された娘と共にウイルスに怯える父親
- ワクチンの開発を目指し、行政やマスコミに叩かれながらも奮闘するCDC(アメリカ疾病対策予防センター)の医師達
- センセーショナルな情報(多くはデマ)を拡散し、富と名声を手に入れていくネットライター
悲しみに暮れる父親はマット・デイモン
CDCの医師にローレンス・フィッシュバーンやケイト・ウィンスレット
ネットライターにジュード・ロウという豪華なキャストが用意されているのも流石。
冒頭5分で死亡する日本人男性役を竹中直人が演じているのもいいですね。
予言書となったフィクション
ソダーバーグ監督らしく、物語はテンポよく淡々と進んでいきます。
感染はとどまることなく拡大し、人々はパニック状態に陥る。
この映画が恐ろしいところは、完成度の高さ故に現実に同様のことがいくつも起こっている点です。
いち早く感染症の存在を感知し、インターネットで情報を広めたフリーのライターは、 センセーショナルな語り口で次第にカリスマ化していき、デマ情報を流し大金を手に入れていきます。
その中で、彼は「感染症にはレンギョウという植物が効く」というデマ情報を流します。
その結果、情報が拡散され、レンギョウを含む薬(漢方?)を求めて民衆が薬局に殺到(薬局にすし詰めでその中に咳をしている人も)。 もう売り切れたという店員の叫び声も聞かずパニックになり暴徒化します。
その裏で、情報を流したライターは(株か何かで)大金を手に入れていました。
日本でも紙製品が品薄になるというデマが流され、辿っていけば転売屋が情報源だったという事件がありました。今なお薬局にはマスクやアルコール消毒品を求めて並ぶ人もいるそうですね。
現実では「インフォデミック」という言葉も出てきました。
他にも
- 「感染症にかかったのか検査してくれ」と心配になった人々が病院の待合室に大勢たむろする
- 国土安全保障省が感染症の発生をテロではないかと疑う
- 男が「就職面接が延期になった」とぼやく
- 生活に困窮した人々が強盗をはたらく
- 感染を防ぐため、葬儀を行えない
等々「これ、今の世界じゃん」と、どこかゾッとなるような場面が多々あります。
更に映画の後半では、
- 少ない配給食糧を人々が奪い合う
- ワクチンを接種する順番を政府が誕生日ごとに抽選で決める
- ワクチンを求める暴徒やテロリストが科学者や関係者を拉致する
といった描写があります。
さあ、これからの現実はどうなるんでしょうか。
映画をなぞってしまうのか。
それとも、映画を超えられるのか。
こんな時だからこそ
衣食足りて礼節を知ると言いますが、
逆に衣食、更には命の危機を感じた時、人はどうなるのか。
見たくなかったものや、今まで見ないようにしていたものが、
次々と眼前につきつけられる。そんな毎日です。
- 盲目的な正義感から拡散されてしまうデマ(誰でもデマを拡散してしまう可能性)
- 欧州で度々発生する中国人(アジア人)差別
- 裏目に出てしまった他者の為の行動
- 各国の医療・行政システムの弱点
どうしても、暗い気持ちになるような情報に目がいきがちです。
心が弱れば誰だって弱い行動をしてしまうもの。
買占めだってなんだって、自分が生き残るためにしてしまいます。
当然のことだと思います。
映画では、群像劇的に様々な人物が描かれています。
・ デマを拡散し、世界を混乱に落とし込み、莫大な利益を得る者
・他者を信じ、他者を愛し、身を粉にして働く者
・死の淵にまで、他者に施しを与える者
・愛する家族を守る為、じっと耐えて待つ者
作中、最後まで必ずしも報われることのない者もいます。
心をすっとさせるような勧善懲悪も、残念ながらあるとは言い難いです。
現実世界も同じです。
マスクの転売は取り締まりを受けようとも手を変え品を変え続いていくことでしょう。
「騒ぎに乗じて何かをしてやろう」と思う人間は必ずいるし、誰だって簡単にそこに堕ちる可能性があります。
そんな中で、私はどうするのか。
作中の誰かに沿って生きるなんてことはできませんが、
せめて、善く生きようと思える、そんな映画だと思います。
握手ができる日を夢見て
同じ空間の人間が咳をしているだけで身を強張らせてしまう。
(日本は文化的にあんまりしないですが)握手やハグなんてもってのほか。
そんな日々が続いています。
5月には終息しているだろう。
夏には終わるだろう。
冬までには・・・
来年には・・・
日に日に、その楽観的な予想が延びていきます。
終わりの見えない日々が続くのかと思うと、気が滅入ってしまいますね。
デザフェスが延期になり、コミケやコミティアも中止発表がされました。
6月のクリエーターズマーケットの開催も怪しい状況です。
ワンフェスやキャラフェス、その他大小さまざまな即売会イベントが次々に中止や延期に追い込まれています。
イベントでお会いしていた方々や、これからお会いする予定だった方々とも、
もうしばらく会うことができないでしょう。
またお会いできる日が来ることを、切に願っています。
それまで、どうか体調にはお気を付けください。
せめて面白い映画を、面白いコンテンツを観て、過ごしてください。
辛い日々が続くと思いますが、心身共に健康でいてください。
いずれお会いできる日が来ることを信じて。
安心して握手を交わせる日々が来ることを願って、
映画紹介を締めさせていただきます。
補足
この『コンテイジョン』、 やはりというか当然というか
様々な所で再び注目されているようですね。
マット・デイモンを始めとする本作のキャストが
新型コロナウィルスの対策動画に出演しているそうです。
また、本作を監修したイアン・リプキン医師が
新型コロナウイルスに感染してしまったというニュースもあります。
「私に感染するくらいですから、誰にでも感染するでしょう」という彼の言葉。
皆様、お気を付けください。